まつブロ

思考の渦

Netflix「このサイテーな世界の終わり」が意外と良かった話。

Netflixで何度も「あなたへのおススメ」へ出てきていたこのドラマ。

このサイテーな世界の終わり。

確かにブラックコメディーは大好物なんだけど、

なんとなくパッケージとタイトルから

ティーンエイジャー向けの中二病全開の青春ストーリーかなと思って見るのを躊躇していた。

結論から言えば確かにそうなんだけど、思った以上に複雑に話が進んでいき、

心が揺さぶられ、大人でも十分に楽しめる作品だったので今回紹介したい。

1話20分で、計8話というコンパクトな作りも非常に見やすかった。

前半は完全にブラックコメディーのノリだが、これが段々とシリアスな展開へと変わっていく。最初から最後までずっと暗くシュールで面白い。

待ってました!よっ!!鬱展開(^O^)/

コメディーとしてもシリアスものとしても十分だが、

ラブストーリーとしてもこの青臭さ、完璧である。

作品の紹介の前に主役のアレックス・ロウザー君を紹介したい。

彼に興味がない方は飛ばしてどうぞ。

 

・主役のアレックス・ロウザー君(Alex Lawther)について。

私は同Netflixの一話完結ドラマ「Black Mirror」の大ファン。

イギリス版の世にも奇妙な物語と言ってよい。なんなら世にも奇妙な物語のコンセプト、丸パクリしてない?とも感じる。

彼はその中のseason 3 episode 3 'Shut Up and Dance' にて主役を演じている。

ひとり頭の中でBlack Mirrorのベスト・アクターを考えていた時に彼しかいないと思ったほど、彼の演技力は異彩を放っている。

「このサイテーな世界の終わり」も、彼が主演という事を知ったので見てみようと思った。

まず何より、見よ、この風貌!!

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このナヨナヨした感じ、細くて白くて弱そうな感じ

決してイケメンでもなければ(失礼)、決して不細工でもない。

ザ・個性派俳優のようなこれといった特徴も特にない。

その辺にいそう。クラスにこんな奴いるわ。という

実に親近感のわく風貌をしている。

日本で言うならココリコの田中さんのような惹きつける陰の雰囲気も持ち合わせている。ていうかココリコの田中なんじゃないの?この人。知らんけど。

そして彼はなんと若干23歳(2018年現在)。

この若さにしてこの実力とこの雰囲気、なかなか出せるものではない。

何をどうしたらこうなるのか教えてほしい。

そしてよく思うのが、

英米の映像演劇界隈、こういう才能を見出すのうますぎる

他にもイミテーションゲームなど有名作品にも多数出演している模様。

これからの俳優としての活躍にも期待ができそうだ。

 

・さて、「このサイテーな世界の終わり」について。

この作品、何と言ってもサブキャラを含む登場人物全員のキャラが立っている。

そしてこのほぼ全員の最初のイメージが後に裏切られることになる。

ここがこの作品の面白かったところである。

 

主人公・ジェームズ:サイコパス(自称)。動物を殺すことに快感を覚えており、自分の感情を全く外に見せない。父親のことを嫌っている。いつか人を殺してみたいと思っており、アリッサが標的になる。アリッサとは正反対のタイプの中二病全開。

 

ジェームズの父:冗談ばかり言ってジェームズをいつも笑わせようとしているお調子者。ジェームズから嫌われている。

 

ヒロイン・アリッサ:転校してきたばかりで友達がいない。まるで感情だけで生きているような中二病全開の性格。複雑な家庭で育ち、この世界をクソだと罵り、常に自分が正しいと信じ切っている。年に一度、実の父親から送られてくるバースデーカードで自分のことを気にかけているのはその父親だけだと思い込んでいる。

 

アリッサの母と義理の父:この義理の父は、自分の本当の子供にのみ愛情を注ぎ、アリッサの事を毛嫌いし陰湿な嫌がらせをする。アリッサの母は、アリッサに愛情がないわけではないが、再婚相手に対し何も言えず、逆らえない。お金に不自由しないという生活を優先している。

 

物語はこのジェームズとアリッサが出会うところから始まる。ありがちな設定に思えるが、ここから全てが悪い方へと向かっていくのだった。

 

 

↓↓↓以下はネタバレ・感想を含めて登場人物を紹介↓↓↓

ネタバレが嫌な方はここで読むのをストップ、Netflixへゴー。

 

 

前述にもあるように、この作品はサブキャラのパンチが強い。

殺された家の人、そのお母さん、ガソリンスタンドのおばさんと気の抜けた若者。

更にはウェイトレスまで、なんかヤな感じ。がすごい。

中でも一番印象に残ったサブキャラがこちら。

 

サブキャラ:ヒッチハイクで乗せてくれたおじさん

このおじさんもまた、絶妙な人選。すごくいい人そうに見えるけど、裏でなんか悪い事してそうな気がしなくもなくもない、という見た目。

そして二人が関わった事で、なんだやっぱりいい人だったのか。と安心するのだが、

オイ!ソッチダッタノカー!!という裏切りが。

二人はまた大人の汚さに触れてしまうことになる。(物理的にも…w)

 

 

主要人物に戻ろう。

 

レズビアンの刑事二人:ユニスとテリ。

最初の登場では、ユニスはどことなくぎこちなく見え、テリの方が優れた刑事っぽい印象を与える。

しかし、ユニスのカンは当たる

テリが論理的な思考で慎重に動くタイプだとすれば、ユニスは物事を多面的に捉えて自分の直感に従って動く。

テリはリスクを取ろうと考えないが、ユニスはリスクを犯しても人を信じている。

テリが悪を悪とだけ見なしているとすれば、ユニスは悪人の中にも善を見出すタイプ。

狩猟用とは言え、銃を向けられている状態なのに

丁寧かつ冷静にその銃を下げるようにお願いするシュールな場面からもその性格が読み取れる。

話し合い、そして方法さえ正しければ理解しあえると彼女は信じているのだ。


私だったらユニスの方が優れた刑事だと言い切るが、人によって意見は分かれるだろう。

物語の最後に、アリッサがジェームズに、

ジェームズの自殺した母親について聞く。

「どんな母親だった?」

とても優しくて、とても悲しくて、そして、、いろいろな事に気づきすぎる人だった

このセリフにユニスを重ねたのは私の深読みだろうか?

 

 

そして一番のやっかい者。

アリッサの実の父:

い・る・よ・ね!こういう人。

ただのダメ人間ではなくて、

そこそこ頭がまわる方のダメ人間

(まあダメ人間と言われる部類の人たちって変に頭がいい所がある気がするけど)

そしてハンサム。これはやっかいだ。

勝手な推測だが、若いころはそこそこ勉強ができてそこそこ普通の人生を送っていたのではないだろうか。

しかし、縛られたくない、自由でありたいという自分に勝てなくてころころと人生が落ちていった…という想像をしてしまった。

論理を身に着けているから、一見彼の言っている事は筋が通っているように聞こえる。

自由に生きてて話も面白くて、自分の芯がある人のように見える。

どこか危なっかしい子供っぽさも、異性の気を惹く。

しかし蓋を開ければ中身が空っぽなのだ。

最終的には自分しか信じてないくせに人から嫌われたくないから愛想がいいし平気で嘘もつく。口が達者。

そして勘がいいので人との心理の駆け引きもうまい。

そして勘がいいので勘のいい人間を嫌う。

こういうのは、人付き合いしていくうちにあとから気付く。

コイツ、口だけだし超自己中じゃん。

ってことに。これを見事に描写しており、とても見ごたえがあった。

ただこの父親と接したことで、二人がほんの少しだけ大人になる。

その意味では、非常に重要な役割だった。

 

 

・ここから感想。

二人が共にしてきたことは、青臭くて美しかった。ライ麦畑でつかまえて、みたいな青臭さ。

アリッサが「ジェームズが、ではなく私たちがころした」という言い方をするのがとても印象的だった。

結局セックスをしなかったのも、大人になり切れない青臭さを描写しているようで非常に良かった。

ラストについては、素直に捉えれば撃たれて死んでまったのだろうが、

同じく中二病患者全開の私から言わせると、

まあ、愛は芽生えた所でおわるのが一番美しいからねえ。

最後の最後で、二人がユニスを信じることさえできていたら。

という思いは拭えないが、でも二人はできなかった。

感情を取り戻して、そこで死んでしまうのはもったいないような気もするけれど、

あれ以外のラストも逆にしんどい。構成的にも。

彼はある種、覚悟と信念を持って、誰かを思ったまま死ねた。

あんな使えない銃を持って最後まで走ったところは、

最後まで大人たちへの反抗を貫いた描写とも言える。

残されたアリッサは気の毒だが。

あんな壮大な逃避行をしといて、

あれ以上の青春と刺激はないであろうその後の彼女の人生を想像すると可哀想だけど、

彼女はまあ、苦労するだろうけどなんとか生きていけるだろう。

人の懐に入っていけるタイプだし。こういう女性は愛を知る機会に恵まれるものです。

正直、私がある程度大人になってしまっているせいで、

この二人に対してはそこまで感情移入はできなかったのだが、

周りの大人たちの反応がおもしろいストーリーだった。

 

何よりも私が一番思ったのは

ジェームズのお父さん、めちゃくちゃ可哀想やんけ。

妻を自殺で失くし、その現場を目撃した幼い一人息子。

普通ならこの時点で気が狂ってしまいそうだが、

彼はきちんと現実と向き合い、自分のすべきことをしながら、

感情が消えた息子とずっと向き合いながら生きてきた。

アリッサの父親とは対極の人間だ。

結局ジェームズの心が根っこの所で死んでいなかったのは間違いなくこの父親のおかげなのだ。

アリッサはそれを呼び覚ましてくれた大切な存在ではあるが、

一番身近で彼を支え続けてきたのはこの父親である。

冗談を言うのもいつもふざけているのも

全てはジェームズの笑顔のためにやってきたこと。

なのにジェームズはその行動の根源が理解できずに父を嫌う。

おい、気付けよジェームズ。

といら立ちが募ったが、、

そんなところも含めて、若さ。青臭いのう。

そんな、嫌われながらもずっと気にかけ愛情かけてきた息子。

その息子が殺人事件を犯し、しまいには殺される。

なんなの。一番救いがない。

私が唯一、感情移入して涙腺が緩んだのもこのジェームズの父親に対してだった。

その後の人生、なにか彼を照らすものがありますように。と願わざるを得ない。

 

最後にこれは物語その後の勝手な推察と希望だが、

ユニスが、ジェームズとアリッサとこの父親の懸け橋になるような気がする。

全てが明らかにされていく中で、

ジェームズに感情が戻ったことをこの父親が知り、

そしてジェームズが自分の感情に従って死んでいったことを彼の中で美化できたら、

少しは気持ちの落としどころがあるかもしれない。

ユニスがレズビアンでなければ、ユニスとこの父親がくっつくという妄想もできたのに。。

もはやこれだけが私の希望。

ジェームズが生きてたらパターンも想像してみたが、

想像するほど興醒めする展開になるのでちょっとつまらない。

 

とにかく、

このすっきりしないラストがベストなので、

Netflixさん、万が一にも続編を作ろうなんて思わないでください。(土下座のお願い)

でも、ユニスとテリがメインの刑事ドラマなら作ってもいいですよ。(上から目線)

 

ビバ!鬱展開!(^O^)/

 

役者陣、一人のこらず最高でした。

以上。興味がわいたらぜひ見てみてください!!

おわりーー。